ディストラクションベイビー

邦画

殴ることでしか世界と繋がれない――『ディストラクション・ベイビーズ』レビュー

ただ“暴力”を見せる映画じゃない

映画って、観終わったあとに「面白かった〜!」ってスッキリする作品もあれば、「なんかヤバいものを見てしまった……」って感情だけが残る作品もありますよね。

『ディストラクション・ベイビーズ』は完全に後者です。

正直、この映画は万人向けではないです。
ストーリーもかなり不親切だし、主人公には感情移入しづらい。しかも延々と暴力が続く。観ていて気持ちいいタイプの映画ではありません。

でも、不思議と目が離せない。

「なんでこの男は殴り合いをやめないのか」
「なんで周囲はこんなにも狂っていくのか」

そんな疑問を抱えながら、気づけばラストまで引きずり込まれてしまう映画なんですよね。

公開当時もかなり話題になりましたが、今観ても全然古くない。むしろ、閉塞感とか若者の空気感は今のほうが刺さるかもしれません。

今回はそんな『ディストラクション・ベイビーズ』について、暴力描写だけでは終わらない魅力を語っていきます。


柳楽優弥の“人間じゃない感”が怖すぎる

まず、この映画を語る上で絶対に外せないのが、主人公・芦原泰良を演じた 柳楽優弥 の存在感です。

いや、本当に怖い。

ホラー映画の怪物みたいな怖さじゃなくて、「現実にこういう人が存在してしまうかもしれない」というタイプの怖さ。

泰良は愛媛の港町でフラフラ生きている青年なんですが、彼にはほとんど目的がありません。夢もないし、社会性もない。会話も成立しない。

ただ、ひたすら喧嘩をする。

しかも勝ちたいわけじゃないんですよね。
殴られても倒れても、また立ち上がる。

普通の人間って、「痛い」とか「怖い」でブレーキがかかるじゃないですか。でも泰良にはそれがない。だから周囲の人間がどんどん狂わされていく。

この“人間のルールが通じない存在”としての柳楽優弥が本当に凄い。

表情もずっと空っぽなんですよ。
怒っているわけでも、悲しいわけでもない。ただ衝動だけで動いている。

その空虚さが逆に恐ろしい。

しかも柳楽優弥って、もともと繊細さや危うさを持った役が上手い俳優ですけど、この映画では完全に“野生動物”みたいになってるんですよね。

街中を歩いてるだけなのに不穏。

目が合ったら終わりそうな感じ。

観ているこっちまで「この人に関わっちゃダメだ」って instinct 的に感じるレベルです。


菅田将暉演じる北原が“普通のクズ”すぎてリアル

そして、この映画がただの暴力映画で終わらない理由が、 菅田将暉 演じる北原の存在です。

泰良が“理解不能な怪物”だとしたら、北原は“どこにでもいる人間”。

ここがめちゃくちゃ重要なんですよ。

北原は最初、ただの軽薄な若者として登場します。ノリでナンパして、ノリで騒いで、退屈を埋めながら生きてるタイプ。

でも泰良と出会ったことで、徐々に壊れていく。

というか、自分の中にあった暴力性が引きずり出されていくんですよね。

これが怖い。

観ていると、「泰良みたいな異常者」よりも、「北原みたいな普通の人間」のほうがリアルに感じるんです。

SNSでもそうですけど、人って集団になると急に残酷になったりするじゃないですか。
普段は普通でも、空気に流されて誰かを攻撃したり、面白半分で酷いことをしたり。

北原って、まさにその危うさの象徴なんですよ。

しかも菅田将暉の演技がめちゃくちゃ上手い。

最初はチャラい兄ちゃんだったのに、だんだん目が濁っていく。
テンションの高さの裏にある空虚さも見えてくる。

この映画、暴力シーンが注目されがちですけど、実際は“空っぽな若者たち”の映画なんだと思います。


小松菜奈の存在がひたすら痛々しい

さらに印象的なのが、 小松菜奈 演じる那奈の存在。

このキャラクター、かなりキツいです。

というのも、彼女は完全に“巻き込まれる側”なんですよね。

泰良や北原みたいに暴力へ向かうわけじゃない。でも、彼らの衝動に振り回されてしまう。

特にこの映画って、女性の扱いがかなり生々しいんですよ。

暴力が支配する空間の中で、弱い立場の人間がどれだけ無力になるのかを、かなり容赦なく描いている。

だから観ていてしんどい。

でも、このしんどさが作品にリアリティを与えてるんですよね。

もしこの映画が男同士の喧嘩だけで終わっていたら、ある種の“エンタメ”として消費できてしまったと思うんです。

でも那奈の存在によって、「これはただの遊びじゃない」という現実感が生まれている。

小松菜奈って、独特の儚さと危うさを持ってる女優ですが、この映画ではその魅力がかなり活きてました。

目の前で世界が壊れていくのに、どうすることもできない感じ。

ただそこにいるだけなのに、ずっと緊張感があるんですよね。


音楽と演出が異様にリアル

この映画を観ていて特徴的なのが、“映画っぽくなさ”です。

普通、喧嘩シーンってBGMで盛り上げたり、カメラワークでカッコよく見せたりするじゃないですか。

でも『ディストラクション・ベイビーズ』は違う。

暴力が全然カッコよくない。

むしろダサいし、痛い。

殴る音も生々しいし、転ぶ感じもリアル。
「うわ、痛そう……」って感覚がずっと続く。

この作品って、暴力を爽快に描かないんですよね。

だからこそ怖い。

しかも街の空気感が妙にリアルなんです。

地方都市特有の閉塞感というか、“何もなさ”がずっと漂ってる。

若者たちが行き場を失って、コンビニやゲームセンターをウロウロしてる感じとか、夜の道路を意味もなく走る感じとか、妙に現実っぽい。

この「退屈」が作品全体を支配してるんですよ。

泰良も北原も、結局はその退屈から逃げられない。

だから刺激を求めて暴力へ向かう。

それって現代のSNS依存とか炎上文化にも少し似てる気がするんですよね。

刺激がないと耐えられない。
何かを攻撃してないと、自分の空っぽさをごまかせない。

この映画、2016年の作品なのに今観ても異常に現代的なんです。


観終わったあと、嫌な感情だけが残る。でも忘れられない

『ディストラクション・ベイビーズ』って、観終わったあとにスッキリする映画ではありません。

むしろ嫌な気持ちになります。

「何を見せられたんだ……」って感覚になる人も多いと思う。

でも、その“不快感”こそがこの映画の価値なんですよね。

暴力って、本来は気持ちいいものじゃない。
人を傷つけることって、本来は怖い。

でも現実では、暴力は時々エンタメ化されるし、消費される。SNSでは誰かを叩くことが娯楽になったりもする。

この映画は、そういう現代社会の嫌な部分を、ものすごく生々しく突きつけてくる。

だから刺さる人にはめちゃくちゃ刺さる。

逆に、「映画には爽快感がほしい」という人にはかなりキツい作品かもしれません。

ただ、こういう映画って貴重なんですよ。

観客に媚びないし、簡単な答えも出さない。
「暴力とは何か」「人間の衝動とは何か」を、ずっと不穏なテンションで見せ続ける。

そして何より、柳楽優弥の怪演は一見の価値ありです。

邦画って静かな人間ドラマのイメージを持たれがちですけど、『ディストラクション・ベイビーズ』みたいな“危険な熱量”を持った作品もある。

気軽におすすめできる映画ではないですが、心をえぐるタイプの作品を探しているなら、かなり強烈な一本です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました